・1日目 学園生活の始まり

 

 

 

・某所にある某カンパニー支部

 

 エレベーターの表示が45Fに点灯した。チンッと小気味良い音がしてエレベーターが

停止した。 エレベーターが止まった時の反動をほとんど感じなかった。たがが一地方の

支部のビルのエレベータの為に一体どれほど金を投資してるのかとも思うが、俺が勤めて

いるカンパニーはそのたがが支部長でもそこらの一流会社の社長並みに贅沢を出来る立場

にいるのだろう。

 エレベーターのドアが開くと広いフロアが眼前に広がった。正面の大仰な扉と部屋の端

にトイレのドアがあるだけで他は何も無かった。

 ただっ広いフロアなのに素っ気無いものだと思っていると声が掛けられた。

「お待ちしておりました。水無月さんですね?」

 どこに人が居たのかわからなかったが声は正面の扉からした。見れば扉の横に女性が立

っていた。

 女性は俺と同じくダークスーツを着ている。確か支部長の秘書だ。面識も無く、名前も

知らないが。

 彼女の背は高く、ハイヒールを履けば俺よりも高くなるだろう。豊かなウェーブがかっ

た金髪と透き通るような白い肌。目は閉じていて何色かわからなかった。

「はい、そうです。ところで失礼ですが、あなたはいつからそこに居たんですか?」

 女性はおかしそう顔に控えめな笑みを浮かべ言った。

「私はずっとここに居ましたが…変なことを仰られますね」

「あーあっはっはそうでしたか。いや、ちょっとうっかりしてたかな」

 我ながら空笑いでそう言いながら女性の様子を伺った。スーツの上からでもくっきりと

浮かぶ豊満なバストは……じゃない

 それも男としてはある意味重要だが。話し始めたときからずっと、彼女の脇がわずかに

体から離れている。恐らく大き目の拳銃をそこに吊るしているのだろう。彼女は支部長の

ボディガードも兼ねているのだ。

「それでは支部長がお待ちしています。どうぞ」

 彼女はそう言うとノックを2回した後、扉を開けた。

 

 

「失礼します」

 扉を押し開ける。部屋の中はさっきのフロアの倍はありそうな広さだ。窓からは街の景

色が一望でき、夜にはそれなりの夜景を楽しむことができるだろう。

 床には赤い絨毯が引かれており、部屋の中には支部長の座る大きなデスクが一つ。休憩

時間にするものかパターの練習台と何故か卓球台

とゲームセンターにある筐体が置かれていた。支部長のデスクの後ろには更に扉があった

恐らくその先には支部長の個人的な物が置かれているのだろう。仕事部屋にまでこぼれて

出ている遊戯の道具を見るとその中には何があるのか興味が湧いた。

「あぁ、来たか……君が水無月九龍君だね」

 デスクに座っていた支部長が尋ねる。俺は「はい」とだけ答えた。支部長の周りには2

人のメイドがそれぞれ両側を守るようにたっている。カンパニー特製の護衛アンドロイド

メイドだ。

 俺が勤めているカンパニーはそりゃもう一流企業なんていう言葉は生ぬるく、言うなれ

ば一つの国家のような存在だが、俺自身は末端の末端。まぁ本当の一般社員よりは多少大

目の給料は貰っているとはいえ、当然支部長に直接会うことは初めてだった。

 仕事柄肝は据わってるほうだから気後れしたりはしないが。それでも失礼なことを言わ

ないよう気を使う。

「君の先日の報告書だが」

 最近提出した報告書のいくつかを思い出したが、どれのことを言ってるのか見当がつか

なかった。支部長は言葉を続ける。

「ALIVE学園の教材の売り込みの件の話――」

 そこまで聞いて俺はようやく思い出した。教材の売り込みに、営業部でもない俺が何故

か営業に行かされたのだ。その時、校長と会って直に交渉したのだが。

 

〜〜〜〜回想〜〜〜〜

 

「うむ、君の話はよくわかった」

 校長は鷹揚に頷いた。

「それでは……」

「しかし君の会社以外にも教科書や教材の売り込みは多くてね」

 それもそうだろう。この学園の教材は一般的な教科書等も仕入れるが、どちらかと言う

と珍しい鉱石や木材、刀剣、銃火器の類からマジックアイテムまで幅広く集めているのだ。

兵器の類は仕入れてないがその購入量は一国に戦争を仕掛けるのではないかと思うほどで

ある。

「そこでこうしようと思う。営業に来た君達にも、我が学園の生徒と一緒になって後期試

験を受けてもらおうと。もし卒業できるだけの単位を集められれば、君のところの教材を

買い付けよう」

 

〜〜〜〜回想終了〜〜〜〜

 

「君にいってもらおうと思う」

「はっ?」

 回想中うっかり支部長の話を聞いていなかった。支部長の顔が不機嫌そうにゆがみ嘆息

して言い直した。

「君にはALIVE学園に一般に編入して校長の提示した条件をクリアしてきてもらう」

 だからどうして営業畑じゃない私が学園に教材売り込みに行かなくてはならないのか。

「今私の担当している仕事はどうなるんですか?」

 抱えている仕事を思い出した。どれも普通の社員に勤まるとは思えない。

「それらは本社からAクラスのエージェントを派遣してもらう事になった。君は安心して

学園生活を満喫して来れば良い」

 その言葉を聴いて少し安心した。

「有給休暇は大分たまっているのだろう?」

 こともなげに支部長はそう言った。

 

俺は有給休暇使ってまでカンパニーの仕事をするのか!?

 

「大丈夫だ。もし受注を取れれば追加の有給と報奨金が出ることになっている。本社の方

から表彰もされるだろう」

 そこまで大きな仕事なのか……自分で思っているよりも大事な仕事のようだ。

「勿論、君が他社の社員に抜かれた場合は……覚悟したまえ

 支部長は笑顔でそう言い放った。笑顔といえどただならぬ重圧を感じる。支部長も上と

話し合った時に色々あったのだろう。

 そしてもしここで断ったら、俺のこれからの社内の立場も非常に危ないものになるので

はないかと思わせた。

「わかりました」

 結局俺はそう言わざるを得ないのだった。

「期待しているよ。水無月君」

 

 

・校内放送終了

 

 後期は実技試験らしい。

 最初は営業畑でもない俺を派遣した理由に疑問を抱いていたが、この話を聞いて納得し

た。

 確かにこの仕事は俺向きだ。

 俺の特技は符術。

 符が無いと弱いという説もあるが、逆に言えばこれがあれば大抵の魔法は扱え召喚術も

使える。

 俺の召喚術の中にはフェアリーや精霊といった初歩的なものから巨大なドラゴンや街一

つを飲み込む化け物と様々だ。この学園がどれだけほどの教育を施しているのか知らない

が、流石に規格外の化け物を相手にするのは無理だろう。

「さて、それじゃ手っ取り早く。教師を探そうかね」

 そう呟いた俺の前に奇妙な棒が現れた。その棒はニョキニョキと人型へと変わっていく。

変形が終えた後、ソレはこう言った。

「はいこんにちはッ!私はマイケルと申しまーす!校長の御指示でアナタの戦闘練習のお

手伝いをさせていただきますよォッ!!」

 どうやらこの奇妙な生き物はマイケルというらしい。

「……なんだか変なのが出てきたがとりあえずこいつを倒すのに良さそうなのは……」

 懐から符の束を取り出し扇状にして手に持つ。……即時に呼び寄せれる中で、そこそこ

に強力なのは……こいつだな。

「来い、魔犬ガル――」

 ヒュンッ――。

 符を放った俺の横を一陣の風が過ぎた。風の正体はマイケルだった。 

「!? なんてスピードだ……」

 幸い打撃を受けた様子は無く、外傷も無さそうだ。では何をしたんだ? だがその疑惑

はすぐにわかった。

 マイケルは背中?をこちらに向けたままグルンと首だけ回してこちらを見た。

「いけません!いけませんよォ! 学園に私物を持ち込んではいけません!」

 見ればマイケルは俺の手に持っていた符を手にしていた。更に護身用にと懐に忍ばせて

いた拳銃まで奪い取っている。なんて速度だよ……。

「……そうだったのか? 俺は学生証も生徒手帳も渡されてないんだが……」

 他部署の手続きミスのせいでドタバタしていたせいもあり、さっき学園に到着したとこ

ろだった。

 マイケルはそれを聞くとうーむと唸った。

「あなたは、この符が無いと何もできそうないですし、それではこの学園では生きていけ

ませんねっ! わかりましたっ!では特別にこれだけお返ししましょうっ!!」

 マイケルが符の束をスッと差し出してくれた。何気なく恐ろしい言葉が混じった気がす

るが、ともあれ符さえ我が手に帰ってくればどうにでもなるだろう。俺は符の束に手を伸

ばす。するとマイケルがスッと腕を引いた。

「でも全てをお返しするわけにはいけません。だからこれで頑張ってくださいッ!」

 そういってマイケルがこちらに手渡した符は一枚だけだった。たった一枚といえど、そ

の符次第では強力な召喚獣が呼べるのだが。

【歩行雑草】

こいつはお世辞にも”強い”とは言えない。いやむしろ弱い部類だろう。何も心得のない

大人よりは強いが、少しでも心得があれば倒せる。ちなみにこいつは学園の花畑に生息し

ている。この学園でもごくごく初歩の生き物だ。そして当然こんな奴だけで教師達に勝て

るとはとても思えない。

「さて、前置きが長くなりましたが行きますよぉッ!!!!」

 叫ぶとマイケルが古びたボクシンググローブで殴りかかってきた。

 俺もへこたれてる場合じゃない……。とにかくこいつを倒して符を取り返さないとな…。

 

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