・2日目 仲間達との出会い

 

 俺からカードを奪ったときのような俊敏な動きはどこへ行ったのかと思うほど彼はたい

したことが無かった。

だが、追い詰められたマイケルは最後の切り札を使う。

 

終わりですッ!

これぞ現役時代の多くの試合に決着をつけた必殺技ッ!!

 

 そう叫んだ彼の気迫は今までのものとは別人だった。神速の速度で動き俺から武器と符

を奪ったあのマイケルがそこにいた。

 その気迫に俺は気圧され、一歩下がる。その僅かな隙を逃さずマイケルは神速の速度で

間合いを詰め。必殺の右ストレートを放った。

――見切れない!?

 だが、その一撃が俺を捕らえることは無かった。

 たった今ストレートを放ったマイケルの顎に見事なアッパーカットが決まっている。そ

のアッパーを放ったのは誰でもない。

 

 

マイケル自身の左だった。

「は?」

「モサー?」

 俺の隣で戦いをサポートしていた歩行雑草も、何が起こったのかわからなかったのか、

目を点にして様子を見ている。多分俺も似たようなものだろう。

「ガハァァッ」

 断末魔の叫びを上げるマイケル、彼の首がアッパーに耐え切れず地面に転がる。

 首から下は衝撃にストレートの反動なのか、上空高く舞い上がり星になった。

ってちょっと待てぇ!!

「ありえねぇだろう。そりゃいくらなんでも!!」

「ふっ、どうやら勘は取り戻したようですねお役に立てて光栄です……」

 首だけになったマイケルは、表情こそ変わってないが何かやり遂げた男の顔をしている

気がした。

「てめぇ勝手に盛り上がってるんじゃねぇよ!どうしてくれるんだ。俺の符と銃をよぉ!」

「大丈夫ですよぉっ!あなたならきっと卒業できるはずですっ!」

「俺は卒業したいんじゃねぇ!」

 あんまりの事態に俺は思わず大声を張り上げた。

「ハァハァ………ん?」

 ここで俺は一つあることに気がついた。

「なぁマイケルさんとやら。まだ話せるかい?」

「んっ!私はいつでも話せますよぉ!」

「何で俺はこんなに疲れてるんだ……? この学園は空気濃度が薄いのか?」

 歩行雑草を呼ぶのは召喚術の入門レベルだ。初心者なら兎も角、俺はダース単位で召喚

できるのだが、今さっきはたった一匹呼んだだけでヘトヘトだった。

「それなら言ったでしょう?学園に私物を持ち込んではいけないと」

「ああ」

「当然ッ!異世界の魔力も持ち込んではいけないのですっ!」

「そんなものまで私物扱いなのかよ!」

 衝撃の事実を聞かされた。っていうか事前説明や調査くらいしてくれよと校長や上司を

恨んだ。どこが俺向きの仕事だ。召喚術が使えない召喚士なんて足の折れたシマウマのよ

うなものだ。ただ敵に狩られるのを待つだけだ。

 しかし今更帰ろうにも、この学園は一旦放り込まれると卒業死ぬまでは出られないと

いう場所で、学園の中は治外法権という噂もあるくらいだ。いくら強力な力を持ってい

るカンパニーでも救援を求めれるのか際どいところだ。

「それで、これがあなたの魔力の結晶ですが」

 俺が一人悩んでいるとマイケルはそんなことを言う。食いつくようにマイケルを見ると

彼の顔からニョキリと手が生え、その手にはピンポン玉くらいの大きさで、コンペイトウ

のような青白く光る石が乗っていた。俺の魔力といわれても見た事が無いからいまいち実

感に欠ける。

「中々いい色をしてますよ。自慢していいですよっ!ひょいパク」

 ………。

「やはり!色!艶!形!から見て中々の絶品と思っていましたが、これほどの味とは、は

っ!?何をするんですかっ―――」

 俺はマイケルを(頭しか残ってないが)おもむろに掴むと、手近にあった校舎の(正確

には共通棟という名前なのだが)に、一人でキャッチボールの練習をする要領で思いっき

り壁に向かって投げた。くるくると放物線を描きながら壁へと飛んでいく。

 ガンッ……ズシャ。

 やはり野球ボールのように弾んだりはしなかった。見た目は似てるからいけると思った

のだが……。

「な、なにをするんですかっ!いきなり人の頭を掴んで壁に投げつけるなんて非人道的で

すよっ!」

 どうやら喋れる程度には無事らしい。

「俺の魔力をかえせぇ!!」

「そんなっ!一度食べたものはもう元には戻りませんよっ!」

「えぇい、首だけだろう。吐き出せ吐き出せ!」

「おろかしい、私の口から下は宇宙に繋がっているというの――」

 マイケルが言い終わる前に俺は、奴の顔をむんずと掴むと再び――今度は至近距離から

――壁に向かって投げつけた。

「……はぁはぁ。ったくこれからどーすりゃ良いんだよ……」

「…何をしているんだ?」

 俺は突然声をかけられた。声には聞き覚えが無かったが、女のようだった。

「ん?何をしてるように見える?」

 質問を質問で返しながら俺は声の主を探した。それはすぐに見つかった。たった今マイ

ケルを投げつけた。その壁についている窓から俺を見ていた。

女は顔立ちは整っているが、愛想が無い無表情な女だった。なぜか爪楊枝を加えているの

は……彼女が顔を出している部屋が食堂だからだろう。

「弱者をいじめてるように見えるが?」

 まぁ確かにそうだよな。

「違うな。いじめられてたのは俺のほうだ」

 とりあえず俺は彼女に訳を話した。見ず知らずの女に情けない話を言いたくなかったが、

俺はこの学園では当ての無い独り者だ。召喚術のほとんどが使えなくなった今は一人で動

くよりも、現地で協力者を探したほうが得策だろう。という思惑が働いたからだ。

一通り話を聞いた後彼女は納得したようにいった。

「という訳で俺は今独り者で、どこか拾ってくれる奴等を探してるって訳さ」

「確かに君はいじめられていたようだな。まぁ話はわかった。こちらも後一人探していた

ところだ。君さえ良ければ歓迎しよう」

 願っても無いチャンスだと思った。まぁ俺も彼女もお互いの素性を良く知りもしないう

ちから組むのもどうかとは思ったが背に腹は変えられないだろう。

「ところで、君の名前は何と言うんだ?」

 そういえば、まだ名乗っていなかったな。一瞬名詞を渡したほうが良いかと思ったが、

カンパニーのことは伏せて話したからそれも変だろう。俺は普通に名乗ることにした。

「そういえばお互い自己紹介はまだだったな。俺の名は水無月九龍………どうした?変な

顔して」

 今まで表情を崩さなかった彼女だが、俺の名前を聞くとひどく驚いたような顔をして、

爪楊枝が口から落ちた。

「………。いや何でもない。私は水野ひづる。よろしく水無月。あなたを歓迎しよう」

 

 

 数十分後。

 食堂でラーメンセットを食べながら、ひづるを含めた7人と自己紹介を交わした。

 彼等は快く俺を受け入れてくれた。だが俺は思った。

 

 

(早まったか!?)

 

 彼女の合わせた7人。程度の差はあれ、皆一様に……かなりの曲者か変体だった。

まずは最初に自己紹介をした。虎我山玖楼。背は俺よりも高いが、体つきはそれほどでも

ない。どちらかと言えば細身で、日本流武術を扱う男だった。何故か彼には莫大な借金が

あるらしく、愛している物は珈琲と女性で、彼の設立している団体名”血刃

どう考えても人を切り殺して何ぼの名前にしか聞こえない。

 彼と似た男がもう一人。雀ヶ原巌流。侍をそのまま絵に描いたような風貌の男だ。もっ

とも東洋人とは思えない程の巨体で、その体つきは西洋人と並べても遜色ないだろう。た

だ喋る言葉は、共用語なのだが何故かわかり辛い語句を好んで使う傾向がある。

その抜き身の刃のような、漂って溢れんばかりの殺気は一人や二人を葬っただけでは出せ

ないだろう。敵で会うと面倒なことこの上ないが、味方に居れば心強い。と言い切れない

何かがこの男にはあった。

 いばらという男は半分兎種族で、彼は前述した二人とは違い魔法型で俺と通じる物があ

るかと思ったが……。口数は少なく、時折なにやら呟くのは見ていて不気味極まりない。

他の仲間の話を聞くとどうも過去に何かあった事が原因らしい。

 男性最後になるのは本城一という男だった。彼は一見英国紳士を絵に描いたような、紳

士的な男で、この自己紹介の会合を開く折、皆にコーヒーを振る舞う良い男だったのだが、

自己紹介が彼の番になった時

 

 

自分は珈琲の化身だ!」と座右の銘は「珈琲は一日にして成らず」

 

が全てを台無しにした。

この瞬間パーティ随一の変体になったのは間違いなかった。

 まぁ俺はコーヒー好きだから、別にかまわないが。実際彼のいれたコーヒーは中々に美

味だった。

 女性陣の中ではまず最初に沈黙を尊ふ者が名乗った。彼女は非常に背が高く巌流や玖楼

と並んでも遜色ない程だった。どうも彼女の名前はコードネームか魔術的な物が絡んでい

ると俺は感じた。武器は銃器らしく、相方の巌流とは正反対をいくような女だが、真逆故

にお互いにしかわからない共通点があるのかもしれない。

 セレシアは黒髪と銀眼というこちらも相反した特長を持っている女性だった。どうもそ

の銀の眼か、付けている小物のせいかはわからないが、彼女は特別人を引き付ける何かが

あるようだった。この異常な人間達の中では、自己紹介の時点では一番まともな人間だと

思った。

 最後にひづるが自己紹介をした。俺は初見、淡々とした女性だと思っていたが、彼女が

勝負事には眼が無いというのに、意外性を感じた。まぁ幼少時に余程の事があるか、洗脳

か、改造でもしない限り人間は性格や特徴というものを消しきれないものなのだが。

 彼女も随分変わった人間に違いないのだろうが、この中に入ってしまえば極々普通の女

性のようだった。

色々と話し合った結果俺はこのひづると組む事になり、歓迎会がお開きになったところで

俺達は食堂から出て行った。

 この時俺の後を付けてくる影に気付くのはもう少し後になってからだった。

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