・5日目 教師戦前 〜結成・珈琲戦隊〜

群れをなして襲ってくる歩行雑草達。

だが、ひづるの華麗な槍捌きの前に歩行雑草は一体。また一体と葬られていく。

「………」

 俺の呼んだ召喚獣、今回は新しく使役した闇の精霊シェイドが無言で残った歩行雑草を、伸びた影が捕らえ葬っていく。ほどなくして俺達を取り囲んでいた歩行雑草は全て動かなくなった。

「もっと手こずるかと思っていたけど……思いの外余裕だったな」

 俺がそうひづるに話し掛けると、ひづるは振り返ってこちらを何か物言いたげな目で睨んできた。

「な、なんだよ?」

 ひづるの目は、私にばかり働かせて…と物語っていた。まぁパートナーを組んでから4日ほど経ち、実際共闘したのは今回で3回目だが、当初から俺自身は戦闘ではまるで役に立っていない。

今回もそれを言ってくるのかと思ったが、彼女は、言うべきか言わざるべきか悩んでいるようだった。

 俺自身の活躍ぶりは相変わらずなのに言うのを躊躇う理由。

 ひづるの視線がシェイドに向けられている事に気付いた俺は一つの仮説を立てて見た。

 今まで呼んだ召喚獣。歩行雑草は論外としても、サラマンダーはそこそこには強いが、まだひづるが直接対決をすれば勝てない相手ではなかった。しかし今日のシェイドはどうだろう?

 瞬間的な攻撃力ならひづるの方に分があるが、頑丈さや、反射速度はシェイドに分があるように見えた。これからひづるも鍛えれば、倒すのはそれほど難しくも無いかもしれないが今の時点では、お互いの実力は微妙なところで伯仲していると言える。

つまり俺はひづると同程度の戦力を呼べるのだ。俺自身の能力を引いたとしても、流石に俺の事を歩行雑草以下とは言えないだろう。

そんな事を考えていると、黙っていたひづるが口を開いた。

「前回、サラマンダーを見たときから思っていたのだが、++それ--は貴様の趣味なのか?」

 スッと彼女は、シェイドを指差した。シェイドは、俺の影から人間の上半身だけ盛り上がっており、日本人形のように艶やかな黒髪を胸元の辺りで綺麗に切り揃えたような容姿をしている。肌の色は全身漆黒で、闇が少女の上半身を模っているのだが。

「いや、趣味も何もだな……。そもそも精霊には決まった形という物は無いんだ――」

「ならば毎回幼女半裸なのだ!! 白状したまえ、貴様の趣味なんだろう?」

「それは、昔から召喚してたときからこういう風に呼んでたから」

「貴様は、昔から半裸の女子を想像して召喚していたというのか。破廉恥な奴だな」

 俺は昔、師匠から召喚符と、イメージしやすいよう手渡された本の通りにやっているというのにな…。

渡された本は、確か子供向けの童話集とかそんな奴だった。本には作者の茶目っ気なのか服を着ている精霊も何人か居たが、総じて皆10〜14歳程度の女の子だった。

一応召喚する際に”着てるように見せる”事もできることは出来るのだが。

 召喚術を必要とする仕事では、単独で動く事がほとんどで、人の目を意識することは無かったのだ。よくよく考えたら勘違いされても仕方が無いか。

今度からは多少疲れても良いから服を着てるように見えるよう召喚するか。

 その後、ひづるは戦闘中に半裸の少女が目の前をうろちょろしていたら戦いに集中できないという事だったが、ひづるの視線が、シェイドの胸元の辺りに集中していたことは、彼女の名誉の為に胸のうちに秘めていよう。

 

 

「そうですか。そんな事が……水無月さん貴方も大変ですね」

 コップを布で磨きながらカウンターに立つ本城一が俺の話を聞いた後、労うように言った。

 俺達は、教師に戦いを挑む為”第一共通棟『血』”へと訪れていた。

ここはその第一共通棟『血』の地下1Fにある珈琲愛好会の店だ。厳しい戦いを控えた俺達は、一息つく為に本城に誘われここを訪れた。

 この場に居るのは俺、本城、そして虎我山玖楼の3人だった。

「ま、お前もようやくあの精霊達の異常性に気付いたってわけだ」

 納得したように頷く玖楼。昨日俺のサラマンダーに魅了された玖楼は、サラマンダーに抱きついた。(本城「はじめて見ましたよルパンダイブなんて」)

その結果、髪に引火。

しかし玖楼は、体や髪が燃えていてもサラマンダーを抱きしめたまま花園を転がり回り、花畑を火の海へと変えていったのだった。

「水無月、燃えてるぞ。早くウンディーネを呼べ」

「呼べんぞ」

『…………』

 最終的には迎え火で火を消す事に成功したが、花畑の一角はすっかりと焼け野原になり、本城の屋台も一緒に墨になり、玖楼の髪はチリチリのアフロになっていたのだが、今では元通りの髪になっている。

「それで、今日はどんな精霊を見せてくれるんだ?」

 気楽にそう言う玖楼。この男は全然懲りていない。

「今日は…というか実はもう呼んであるんだが」

「ん、どこにいる――なっ!?」

「ッッッ!?」

 俺の影に潜んでいたシェイドに出てきてもいいと命じたのだが。二人の顔は、驚き、次いで悲鳴を上げる一歩手前のような青い顔になった。

「さ………さだ………貞」

「それ以上は言ってはいけませんよ玖楼さん」

 音も無く俺の背後に現れたシェイドは、長い髪で顔どころか上半身が隠れている。コールタールのような髪が衣服の変わりに素肌の上にまとわりついていた。

ひづるに注意されて、多少外見を変えてみたのだが、その外見は某ジャパニーズホラーの幽霊そっくりであった。確かに外見は恐いが、シェイドは割りと好奇心旺盛な精霊で可愛いところがある。今も俺の飲んでいる珈琲に興味を示しているようだった。

「一さん、悪いけどこいつの分も作ってくれないか?」

「えぇ。いつもの奴で良いですね?」

「あぁ構わない」

 ほどなくして本城特製ブレンドコーヒーがカップに満たされる。コーヒーを作ってる間に二人ともシェイドに慣れたのか、落ち着きを取り戻していた。

「どうぞ」

 差し出されたコーヒーのカップをどういう風に飲むのか、興味有りといった感じで見る二人。シェイドはコップに恐る恐る手を伸ばす。

ズッズッズッズッ 

 シェイドはコップに触れる。触れた場所が闇に飲み込まれ、闇にコーヒーが吸い込まれていく。やがて、中身のコーヒーと、そしてコップは完全に闇と一体化した。

「………」

「………」

「………えーっと…うまかったって……そのごめんなさい」

 うまく命令してなかったせいで、うっかりコップまで食べたシェイド。呆気に取られていた本城はすぐに笑みを浮かべ。

「いえ、構いませんよ。幸い、コップもコーヒー豆もたくさん手に入りましたから」

「あれ、昨日確かかなりの量が燃えたような……」

 昨日の炎上で一番の被害を受けたのは本城だった。何せ屋台に燃え移って炎上したのだから。あの時の彼は性も根も燃え尽きたように灰になっていたのだが。

 と、そこで俺はカウンター奥の扉が僅かに開いている事に気付いた。奥の部屋はコーヒー豆を保管する場所なのか、明かりはついていないが、中を覗いてみると……。

「っと、ちょっと豆を取ってきますね」

「俺も手伝おう」

 その視線に気付いたのか本城と玖楼は奥の扉へと消えていった。次いで、奥からガスッ!ゴスッ!と何かを殴るような音が聞こえてくる。そう言えば……地下の店のはずなのに外に看板とか無かったな。

 きっと昨日ショックから立ち直れなかった本城を見かねた玖楼が、店乗っ取りを持ちかけたのだと思うのだが。

最初睨んだとおり、奴の血刃はヤバイ組織だったか

 

 それから小1時間ほど、戻ってきた二人とコーヒーを飲みながら、教師戦まで話を続けていたのだが。

「なるほど虎我山さんは、セレスさんの前では素直になれないんですね」

「そういう訳ではない……無いんだが、どうもな……」

 なぜか話の中心は玖楼の恋話へと変わっていっていた。

「らしくないな。玖楼。好きなら好きっていうのが、お前の流儀じゃないのか?」

 玖楼はそれなりの容姿で女なら誰でもいいという節はあるが。

「好きというわけではない。8つも歳が違うと見る目も変わる………だが――」

「だが?」

「清く澄んだ流水の如く流れる黒髪を、ついつい戦いのそのときにも目の端で追ってしまう。氷のような澄んだ銀色の瞳。冷静な普段の表情からはとても想像できないような、慌てふためいている姿を見たときは、この上なく愛らしかった。

抱けば砕けそうな細い体を、思いっきり抱きしめたくもある。

いつも冷たそうな変わらぬ顔だが、時折見せる笑顔――」

「こりゃ、相当重症だな」

「重症ですね」

 しばらく語り続ける玖楼を横目に俺達はコーヒーを啜った。

「あの小さく柔らかい唇が俺の名前を呼んだとき、俺は遥か遠くの天上の女神と出会ったような幸福を覚えた。

いつも生真面目で、常識を知っている風にありながら、田舎のお嬢様育ちのように無知で無垢なセレス。

誰も踏み入ったことの無い深遠なる森の奥に湧き出る泉のように澄んだセレス。

俺はその泉を俺色にっ―――――

「サダコ…頼む」

 俺の横にたたずんでいたシェイド。話してる間にサダコと呼ぶ事になった彼女に、玖楼を止めるよう命令する。

 そろそろ年齢指定の言葉を叫びだしそうな玖楼にサダコがゆらりと巨大化して玖楼を飲み込む。

「うわー何をするキサマ―――」

 

 

「まぁ……貴方の気持ちはわかりました」

 落ち着いた物腰で、本城は言った。

「それでも本人を前にすると気持ちが鈍ってしまうことも、そんな貴方に是非ともこれを……」

 そう言って本城はカウンターの下から何かを取り出す。

「……服か?」

 最初は黒いスーツかと思ったが、広げて見ると黒い半袖半ズボンのレザースーツだった。何故かツバ付帽子もある。所々銀色の鋲が付けられていて、黒光りする皮と相まって攻撃的な服に見えた。

「これは………?」

 昔読んだ北斗の●拳に出てくる雑魚が、好んできていたような服を手に俺は本城に視線を向けた。

「勇気の出る――魔法の服ですよ。実際これで魔法を使えるようにもなります」

 ごくごく真面目に答える本城。だが彼はいつの間にか普段の制服から、レザースーツへと着替えていた。引き締まった肉体が惜しげなく晒され、思ったとおり攻撃的な服だった。そんな服を着てもまだ、紳士のオーラを出せる本城は凄いと思ったが。

「水無月。騙されたと思ってきてみな。すげぇぜ。こいつは! この服を着ればどんな不可能もやり遂げられる気がする」

 見れば玖楼も着替えていた。こちらは何故かサングラス着用しており、攻撃的な印象に磨きが掛かっている。

「さ、水無月さんも……ね」

 本城がごくごく優しく俺の肩に手を乗せ、服を渡してくる。

 

 

気がつくと何故か俺もその服に身を包んでいた。

「…確かにこの服はすげぇな。着ているだけで力が漲ってくるようだ」

 俺の体のどこに眠っていたのかわからない力、その力がこの服を着た事により湧き出て、気分が高揚してくる。

「あぁ、まるで激しく踊りたくなるぜ フォォオオオオオオオオオオ!!

 突然玖楼が飛び上がると机の上に乗り、激しく体を揺さぶるように踊りだした。でたらめでリズムも何も無い動き。だが彼の中からあふれ出す力を形容するには、もっとも合った動きなのだろう。

「………一さん。あれ…大丈夫なのか?」

 さすがに心配になってたずねて見る。

「えぇ、大丈夫です。ちょっとトランスしていますが、すぐに体に馴染むはず―――」

 ビッ…ギッギッギッ

何かひび割れる様な音がする。見ると本城の顔色が変わっていた。

「まずいですね。虎我山さんの気は予想以上に高いようです……ちょっと作りが甘かったせいかもしれませんが」

「それはつまり……」

 

ギッギッギッ

 

「えぇ、暴走しそうです。こちらへ」

 本城は慣れた風にカウンターの奥へと俺を誘う。入り口付近のテーブルの上で踊り狂っている玖楼。彼を中心に部屋の中に風が吹き始め

る。その風はやがて突風へと変わりはじめる。

 

「フォーーオ!! 最高だぜYEAH HAAA!!!

 

ギッギッギッギッギッギッ

 

風と音が最高潮になったそのとき、カランカランと入り口から鐘の音が聞こえた。

 

「虎我山さん。そろそろ時間で――――」

 

「YEAHHAAAAAAAAA」

 

ビリィッ!!!

 

力に耐え切れなくなった玖楼の服が破け散る。

同時に、絹を裂くような少女の悲鳴が上がった。

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